二代目・福田彰の故郷石川県にて、伝統と縁そしておもてなしの心を伝え継ぎながら親しまれている茶室「安楽庵」をご紹介します。
石川県白山市倉光に、江戸後期から明治初期に建てられたとされる「安楽庵」という茶室があります。金沢駅からは車で30分ほど、松任総合運動公園の敷地内に建つこの茶室は、1995年3月までは紀尾井町福田家敷地内に存在していたものでした。私の祖父にあたる二代目・福田彰が店の大規模な改修工事にともない、出身地でもあるこの場所に寄贈・移築いたしました。
そもそもなぜ、このように伝統ある茶室が当店にあったのかといいますと、昭和24年ころに野村證券創始者でもある野村徳七氏が京都・南禅寺のほとりで所有されていたものを、初代の福田マチが譲り受けたと伝え聞いております。当時「雪の間」と名付けられていたこの茶室は、紀尾井町 福田家の離れのようなかたちで使われていました。
離れとしてプライベートも保たれるため、この「雪の間」は人気があったようです。ここを年間契約して貸し切りたいという申し出が造船会社の社長や銀行家の方からも寄せられるほどだった……そんなエピソードが、『紀尾井町福田家のひととき』(岡谷未於著)に残されています。この本を二代目・福田彰の88歳米寿の際に色々な方に寄贈しました。
2022年明けの雪深い日に「安楽庵」を訪れました。雪化粧をした茶室の姿はとても美しく、魅了されました。また3畳のこぢんまりとした室内では、雪の模様が施された欄間に風情を感じ、心地よいひとときを過ごせました。白山市の方々が大事に手入れをしながらこの建築を今に残してくださっていることを、大変ありがたく感じております。また春から秋にかけて「安楽庵ふれあい茶会」を開催してくださり、多くのみなさんに使っていただけることも嬉しく思います。
今回はあらためて寄贈をさせていただいて良かったという気持ちと、石川県との深い縁を再確認できました。私どもも微力ではありますが、これからも石川の伝統工芸「輪島塗」をはじめ、加賀鳶(福光屋、金沢市)など、日本文化や地元の生産者さんとの繋がりを大切に伝えていきたいと思っております。
白山市文化協会事務局長・長谷川茂様よりコメント
白山市は松任市をはじめ2町5村の平成の大合併により、2005年に誕生しました。白山の頂上2,702mから一級河川手取川を経て、日本海まで続く石川県内一の面積を有する市です。
茶室「安楽庵」の白山市(当時:松任市)への移築につきましては、当時二代目の福田彰さんが東京松任会の顧問をなされており、「福田家」さんの改修と松任総合運動公園建設との時期も重なり話が進みました。公園の庭園の一角に、移築分と合わせ一席に15名程度入れるように建設し、室内から外の綺麗な景色が楽しめるようになっております。「安楽庵」の説明書きの掲示もさせていただき、迎える側、来館されるお客様にも経緯などを伝えていければと考えています。
現在「安楽庵」は、白山市文化協会が指定管理者として管理しており、中でも白山市茶道協会がお茶会の開催やお稽古場として利用促進に努めております。また施設の方々のお茶会団体体験、国際交流の中でのお茶の体験に活用しております。
「安楽庵」には「福田家」四代目・福田貴之さんをはじめ福田家の社員の皆様方も来場いただきました。2025年3月で移築30年を迎えることになり、記念の茶会などの開催についても検討しております。今後も「福田家」さんとの繋がりを大切にしていきたいと思っております。