岩手県九戸郡、洋野(ひろの)町でうにの生産、加工をされている「北三陸ファクトリー」。代表の下苧坪 之典さんは「北三陸から、世界の海を豊かにする」というビジョンを掲げ、熱い思いで最上級のうにを作り出し届けていらっしゃいます。今回は下苧坪さんが手掛けている「洋野うに牧場」を見学しながら、キタムラサキウニの美味しさの秘密についてお聞きしました。
岩手県沿岸最北端にある洋野の海岸沿いを訪れると、目の前にうに牧場が広がっていました。約18kmにわたるうにの増殖溝を見て、まずは大きさと美しさに驚きました。ここも、東日本大震災のときに津波被害に遭った場所。瓦礫などを一掃してきれいな海岸を取り戻し、今から約60年前、人の手で海に棚田のような溝を作り、うにを育てていた場所を「うに牧場」としてブランド化してきたのには相当な労力や努力があったのだろうと思いました。
うには昆布やわかめなどの海藻類を餌にして育つのだそうです。ところが雑食のため、餌となる海藻がない環境では岩や海底のゴミまで食べてしまいます。上質な海藻類のみを食べて安定的に育つうにを生産するために、洋野町の漁師は天然の昆布やわかめなどの海藻が豊富に繁茂するような環境にし、うに牧場としました。
下苧坪さんによると、旨味、甘味、色味すべてにおいて最もおいしいのは生後4年から5年目の若いうに。それ以降は味が落ちてくるのだそうです。そのため1年目の赤ちゃんうにをウニ栽培センターで生産、2~3年目には海の沖の方に放ち天然の漁場で育て、4年目を迎えたうにを牧場に移植しています。天然の昆布やわかめを食べておいしく育った高品質の「牧場うに」が漁師さんによって水揚げされ、漁場の目の前にある北三陸ファクトリーで加工・出荷されるというサイクルが徹底されていました。
近年は地球温暖化や自然環境の変化のほか、うになどが海藻を食べ尽くしてしまう「磯焼け」という現象が進んでいるといいます。その進行を止めるために、全国でうにの駆除が推奨されているそうです。駆除された痩せうには磯焼けによる餌不足で実入りが悪く商品価値がないため、廃棄されることになります。そこで下苧坪さんは、痩せうにを廃棄せず、商品価値のあるおいしいうにとして再生養殖する事業にも取り組んでおられます。こちらは「四年うに」とは別の「はぐくむうに」として出荷しているそうです。まさに「北三陸から、世界の海を豊かにする」というモットーにつながる素晴らしい取り組みだなと思いました。
農家さんが野菜を作る際に土作りに重きを置くように、おいしいうにを生産するにあたり、うににとってよりよい環境を作ることが何より大切なのだと今回あらためて感じました。こうして大事に育てられたうにを送っていただいた我々が、鮮度や旨味、甘味をそのままにお客様に味わっていただけるよう尽くしてまいりたいと思います。初夏の時期、岩手・北三陸の豊かな海の恵みを味わう一品として、当店のうに料理をどうぞお楽しみください。
料理長・松下俊一よりひとこと
北三陸ファクトリーさんのうには、私がこれまで持っていた、キタムラサキウニは比較的味が薄く色も薄いものだという印象をガラッと変えてくれました。色味が鮮やかで、味が濃厚。こんなに実入りが素晴らしく、味わい深いキタムラサキウニには初めて出会いました。うに牧場で昆布やわかめをはじめとした海藻類だけを食べさせて育てているからこそ、この濃厚な味が出るのでしょうね。
現地で水揚げし、生きたまま殻付きで送ってくださるのですが、中の身がぎっしり詰まって新鮮な状態で届きます。こちらに届いても3~4日は普通に生きているというその鮮度からも、他のうにとの違いがわかります。
うにの旬は6月から7月までの2ヶ月。毎年この時期は、この良質なうにをお客様にどう楽しんでいただこうかを考えております。今年の6月は、アオリイカ、小松菜、キャビアと合わせた献立にしました。これらが引き立て役となって、主役のうにの旨味を全面に押し出したような一品です。また7月にはガラッと変化を加え、軽く温めたうに料理をご提供します。人肌より少し温かいぐらいに温めることで、うにの味が変わってくるのです。そこに温かいホヤなどを盛り付けた一皿にしたいと考えております。
北三陸ファクトリー・下苧坪之典様よりひとこと
福田家様との取り組みは、北三陸の限り有る海の恵みである「キタムラサキウニ」を、日本の美しさを纏った一皿に変えていただいております。それは、私たち北三陸の生産者の誇りとなり、洋野町のうにが日本から世界に広がり、持続可能な水産業の未来が拓かれていく原動力になっていると、強く感じております。これからもお届けできるよう、引き続き努力して参ります。