立春を過ぎた、ある日の早朝。料理長の松下とともに、私は豊洲市場へ向かいました。会いに行ったのは、料理人に代わって質の高い魚や野菜を見極め、仕入れてくださる「納め屋」という仕事をしている山友さんです。今回は福田家の料理において大切な存在、納め屋さんのお話をしたいと思います。

これまで「福田家の調理場から」では、全国各地の生産者の方々を紹介してきました。アスパラならば、ウニならば……と、その食材ごとにすばらしい生産者との出会いやご縁があり、季節のおいしい食材を届けていただいています。とはいえ、旬のコース料理に必要な食材のすべてをそれでまかなうことはできません。そこで頼りにしているのが納め屋さんです。

納め屋さんの主な仕事は、飲食店やホテルなどの料理人に代わって、店が求める魚介や畜産、野菜などを市場で仕入れ、届けること。豊洲市場でいえば買い付けは朝6時ぐらいから始まるので、毎夜遅くまで調理場に立つ料理人たちにとって、代わりに目利きをし、質の良い素材を探してくださる納め屋さんの存在は大変ありがたく、福田家との信頼関係で成り立っています。

この日訪れたのは、築地・豊洲市場の納め屋として37年の歴史をもつ「山友」さん。社長の山本さんと福田家とは40年以上のお付き合いがあり、山本社長は毎朝、料理長の松下に電話で市場の様子や仕入れ状況を事細かに伝えてくださいます。山本社長からの情報をもとに、今日の夜の料理が滞りなく仕上がるかを確認するのです。天候や状況次第でいい素材が揃わないとなれば、仕入れる魚や産地を変更することも多々あります。

現在は社長の息子さんである山本皓太郎さんも現場で活躍されており、忙しいお仕事の合間を縫って、お話を聞くことができました。納め屋さんは、飲食店からの要望にあわせて魚介類を仕入れるといいます。そのためには長年にわたる、競り人や生産者の方々と密なコミュニケーションや、いい魚を見極める目が欠かせないのだそうです。この日も買い付けたばかりのナメタガレイ、ヒラメ、白子などを見せていただきましたが、良い素材を求めて魚と向き合うプロ意識の素晴らしさを、心から感じました。

料理人にとって頼れる相談相手である「納め屋」さん。こうした方々に支えられていることに感謝しながら、今後も一層、良い関係を続けていきたいと思っております。

料理長・松下俊一よりひとこと

山友さんの素晴らしいところは、素材に対して厳しい目を持っていることです。いつも豊洲市場内を走り回って、間違いなくトップグレードの素材を届けてくださいます。もし質の良いものが揃わないときには、「福田家さんに出せるものは、今日はありません」と伝えてくださるんです。こうした姿勢から、山友さんには大きな信頼を置いております。

また、いつも感心してしまうのは、素材を届けてもらった後に「今日の素材はすごく良かった」と連絡を入れると、「どう良かったのか」を直接確かめに、店まで戻ってきてくださるところ。料理人の目で見たときに、素材のどこがどう良かったのかを知りたいというのです。ここまでしてくださる人はなかなかいませんし、その勉強熱心な姿勢には頭が下がる思いです。今後も山友さんと協力をしながら、おいしい旬の味をお届けしていきます。

山友様よりひとこと

納め屋の仕事で最も大切なのは、品物の良し悪しを見極めることです。こればかりは、自分の目で見て、手で触って判断するしかなく、そのために日々の勉強し経験を積んでいます。長年働いていますが、それでも毎日何かしらわからないことにぶつかり、得るものがあります。

自然相手なので天候などで状況も変わりますし、思うように魚が揚がらなければ金額も高くなってしまいます。納め屋の仕事をしているとトラブルは日常茶飯事ですが、その上で、お店と相談しながらご希望に適う素材をお届けできるように精一杯努めています。

福田家さんとのお付き合いは、山友にとって「誇り」です。一級品の魚を求めてくださる福田家さんだからこそ、常に質の高い素材をお届けすることができます。私達の目もさらに鍛えられますし、その経験が自信や信頼関係にもつながっているように感じます。これからも密にご相談をしながら、少しでもお役に立てるようなお手伝いをさせていただきたいと思います。