今回取り上げますのは、関東では希少な一品、大変おいしい真魚鰹のお刺身です。広島県福山市で瀬戸内海の旬な鮮魚を扱われている魚屋さん、「カネト水産」の5代目・佐藤弘常さんから送っていただいています。佐藤さんとの出会いは、1年ほど前のことでした。常連のお客様から会食のときに広島の食材を使ったコースを出してほしいというリクエストをいただき、料理長と一緒に広島のいい食材を探している際にご紹介いただきました。
さっそく試しにいろんなお魚を送っていただいたのですが、どれも新鮮でおいしいものばかりでした。中でも特に「真魚鰹」のすばらしさには驚きました。こんなに透き通るように白く、きれいなものは見たことがありませんでしたので、この新鮮さを存分に活かし、ぜひお刺身で味わっていただこうということになりました。
今回、実際にカネト水産さんを訪れて、佐藤社長ともお話しさせていただきました。広島県福山市内海町はのんびりとしていて、海も穏やかで心地がいい場所でした。佐藤さんは柔らかなお人柄でサービス精神が旺盛。なにより限りある水産資源についても深いお考えをお持ちで、とても実直なお方でした。佐藤さんにお会いして、あらためて魚屋さんとしての技術の大切さ、魚の質や価値を魚屋さんがどれだけ高められるかの重要さを知ることができました。また、空気で魚の神経を抜く方法や、海の中に作っている生簀なども見せていただき、魚へかける情熱を感じました。
広島から届く新鮮な真魚鰹のお刺身(10月〜12月)を、ぜひ当店でご賞味ください。
料理長・松下俊一よりひとこと
真魚鰹という魚は関東圏では獲れないため、関東では刺し身で食べられることがほとんどありません。私自身、これまで築地や豊洲でトップクラスのものを見てきましたが、身が白濁している状態が普通だと思っていました。ですので、カネト水産の佐藤さんから届く真魚鰹の、透き通るようにきれいな身を見て驚きました。刺し身で出せる鮮度の良さに感動したとともに、豊洲トップクラス以上のものを見られたのは私の貴重な財産となりました。
一年ほど前にお付き合いが始まりお取引をしていく中で、より質を高める工夫をしていただいたこと、そしてそのお気持ちも嬉しく思いました。空気を使って一瞬で神経締めをする津本式のアレンジを覚えてくださり、より鮮度を保ったまま、お店に届けていただけるようになりました。
今回はこの真魚鰹と、同じくカネト水産さんからのスミイカをお造りにし、魯山人の備前波縁皿に合わせました。スミイカも鮮度がよく、十分な甘みがあります。イカは表面よりも中心部が舌に触れたときに一番甘みを感じるといわれていますので、口に入れたときに甘みを感じるように包丁を深めに入れております。温泉を煮出して作った長野・大鹿村の塩とすだちを1適垂らしてお召し上がりいただくのがおすすめです。また土佐醤油は、かつおぶしをたっぷり使っているので、香りがより引き立ちます。
「カネト水産」の5代目・佐藤弘常さんからひとこと
私共は漁師とお客様をつなぐ仕事を代々営んでおります。瀬戸内、広島には小魚文化、そして活〆にこだわる文化があります。福田家さまとは1年前からご縁をいただき、松下さんに「大きくていいマナガツオ上がったら、連絡ください。」と頼まれています。
ある日、取引漁師で一番魚の扱いが丁寧な方が「マナガツオが大量だから一緒に包丁で締めてくれ!」と言われ、はじめて飛び跳ねるマナガツオをみました。身が柔らかくキズが付きやすい魚なので、通常は漁師に漁船で出刃を入れてもらい、びっしり氷をあて30分もすれば身がしまります。ですが折角、活〆のマナガツオなので、鮮度を保つために神経を抜いて送らせてもらいました。すると翌日、松下さんから「こんなの見たことない。」と大好評で、すぐにその漁師に「1~2匹でいいから、活かしてください。東京の料亭に送りたいから」とお願いし、定期的に神経抜きマナガツオを送ることができるようになりました。
福田家さんのような一流のお店と取引できることは、私共や漁師にとってとても誇らしいことであると同時に、挑戦する機会でもあります。「活き」の良さにこだわり、東京に届いても鮮度が高い状態にできるように、もっといい方法はないか、追及していきます。それから、季節ごとに瀬戸(狭門)の潮流で鍛えられたお魚をご提案していきます。