83年目を迎えた福田家で、創業以来変わらずにお出ししているお酒が広島の「賀茂鶴」です。賀茂鶴酒造さんは酒まつりで有名な広島県の西条にあり、2018年に会社設立100周年を迎えられました。酒名「賀茂鶴」としての創業は明治6年(1873年)にまで遡るそうで、大変歴史のある酒蔵として知られています。
賀茂鶴と福田家の出会い――それは当店創業の地である虎ノ門に由来します。創業当時、店のすぐ近くに海軍省がありました。海軍の将校の方々には、大変ご贔屓にしていただいたようです。将校の方々は広島の江田島や呉で訓練を積み、その後東京へ戻っていらっしゃるということを聞き、ぜひ広島のお酒をご用意したいというところから、お付き合いが始まったそうです。
以来、今に至るまでそのお付き合いが途絶えたことはありません。戦時中の大変な状況下でも、広島から東京へお酒を送り続けてくれていたと聞いております。83年という長きにわたりお付き合いしているところは他にありませんので、その意味では福田家にとっても賀茂鶴酒造さんは特別な存在です。
賀茂鶴酒造のお酒といえば、長年にわたって人気と定評のある「大吟醸 特製ゴールド賀茂鶴」。アメリカのオバマ大統領が来日し安倍首相(いずれも当時)と会食をした際に「すきやばし次郎」さんで飲んだお酒としても注目を集めました。食中酒としてどんなお料理にも合いますし、裏技として燗にして召し上がる方もいるぐらいふくらみのある味わいが大きな魅力だと感じています。
深く印象に残っているのは、前に東京支社長(賀茂鶴酒造)が「酒の旨みは甘みです」とおっしゃっていたことです。米の甘みを強調しているお酒であり、これこそがお米のうまみなんだなと、私自身も飲む度に感じています。なお、当店でお出ししているお酒はごく限られたお店でしか飲むことのできない「冨嶽賀茂鶴」を(題字は文化勲章受章者、金子鷗亭さん)特別に送っていただいております。
先日、私も広島の賀茂鶴酒造さんを訪れ、酒蔵内をじっくりと見学させていただきました。酒の命になる麹を大切に育てている麹室の中にも入れていただき、とても貴重な体験となりました。これまで代々大切に守ってきた絆、そして深い縁を感じておりますので、これからもこの関係を続けてまいりたいと思います。
料理長・松下俊一よりひとこと
賀茂鶴は、お料理に合う万能選手です。特に、「福田家」のお料理には全般的に合うと思います。酒粕を粕汁や西京味噌に練り込んで使わせていただいていますが、香り高いのが特徴です。ぜひ、お食事と合わせてお楽しみください。
賀茂鶴酒造 代表取締役副社長 石井裕一郎 様よりひとこと
亡父・石井泰行前会長は東京賀茂鶴会を紀尾井町・福田家様で開催。私も数回参加させていただきました。「器は料理の着物である」と表現した北大路魯山人。そのこだわりが福田家様には生き続けています。賀茂鶴のお酒もお料理を引き立てる脇役として、これからも福田家様をお支えいたします。
写真右:紀尾井町 福田家 福田貴之