淡路島にて、昔ながらの技術を受け継ぎながら高品質で味のよいなまこ加工品を生産している、大正10(1921)年創業の「品川水産」。四代目の品川佳之さんとは同い年で、4~5年前に日本青年会議所水産部会を通じて知り合いました。なまこの生産はもちろん、淡路島周辺の環境についても常に考え、行動していらっしゃる方です。今回は品川さんたちが代々作り続けてきた「なまこ」についてご紹介させていただきます。
なまこの旬は冬で、例年2月頃が生産の盛んな時期だそうです。2022年はなまこが上がってくるのが少し遅く3月になったということで、私もその頃に「品川水産」加工の現場を訪れました。目の前に瀬戸内海が広がる屋外では、生捕りにした良質ななまこを漁師さんたちから仕入れ、辺り一面に広げて天日干ししながら「干しなまこ」を作っていました。
品川さんたちのお仕事は、100年前から変わらない伝統的ななまこ加工。機械類は使わずに天日のみで乾燥させるため、天候や湿度の影響を受けやすく難しい製法です。3ヶ月という時間をかけてゆっくり水分を抜いていく緩慢乾燥のため、水で戻したときの形の良さや大きさが、外国産などの他のなまことはまったく違うとおっしゃっていました。また、状態のいいなまこをそろえるためにも、漁師さんたちとの連携をとても大切にしていらっしゃるのだそうです。
なまこの卵を取り出し、撚り合わせて三味線のバチのような三角形にし乾燥させた「バチコ(干し子)」という味わい深い珍味があります。品川さんたちは愛情を込めて「この香(このこ)」と名付け生産しています。見学に訪れた際も、ここで働く女性の皆さんがなまこに切れ目を入れ、素麺状になった卵を取り出し、冷たい塩水で洗う作業をされていました。
そうして取り出した卵を確かな目で見極め、いい状態のものを選定しながら撚って形を整えていく手仕事は、品川さんのお母様にしかできない技術なのだそうです。皆さんの手間暇をかけたお仕事ぶりに、品川水産のなまこがおいしい理由を見た気がいたしました。
品川さんからはこれまでの波乱万丈な半生についてもお聞きしました。なかなか売上も伸びず厳しい時期もあったようです。しかし、ある日ふらりと訪れた香港のお客さんがなまこを大量に買ってくれたことをきっかけに、すぐさま香港へ飛んで海外進出への足がかりを作ったのだとか。そうした抜群の行動力に感服しました。
品川さんやお母様たちの手によって丁寧に作られる香り高いなまこ。当店を訪れるお客様にその味を楽しんでいただきながら、淡路島のなまこの良さを少しずつでも広げていければ嬉しく思っています。
料理長・松下俊一よりひとこと
品川さんの「干しなまこ」は柔らかく、むらがなく均等に戻りますから、非常に状態のいいなまこだと思います。お母様はとても親しみやすい方で、何度も電話で「こういうなまこを使いたいんです」「こうやって加工していただけませんか」などと相談に乗っていただきました。干しなまこを水で戻すには正味5時間ほどかかるのですが、90度のお湯で1時間戻し、冷めたら新しい水を入れて…などお母様に詳しく教えていただいたおかげで、とても良い状態に戻せるようになりました。
卵を撚って半生の状態まで乾かした珍味「この香」は、これぞなまこという豊かな香りと風味が一番の特徴です。炙って、口の中の香りを楽しみながら日本酒と合わせていただくのが最高ですね。また、焼いた「この香」を先付けの蛤のスープに入れると香りが立ちますし、天ぷらにしてかぶと合わせて食べていただくことで、かぶに絶妙な塩味が加わります。品川さんの作る高品質ななまこの香りと食感を、どうぞお楽しみください。
品川水産 品川様よりひとこと
なまこ加工品は食材として非常にトラディショナルで、わかる人にしかわからないというニッチさもあるものです。福田さんと知り合い、最初にこの香を送って味を見てもらったのは5〜6年前になるでしょうか。最初から「この人だったらわかってくれるな」と思っていました。
予想通り、食べていただくとこの香のよさを一発で理解してくれて、すぐにおいしい料理として使っていただけました。お店の方との意思の疎通ができることは、作り手としてはとても嬉しいことですね。私達としてもよりいいものを作り続けていけますし、その思いが伝わるからこそ料理人さんがいい料理を作ってくれて、最終的には食べてくださるお客さんにつながっていくので。
時間をかけて作りあげるこの香や干しなまこは、この先もっと貴重なものになっていくと思います。かといって誰もが「売れるから作りましょう」とすぐに作れるものでもありません。私達には100年かけて培ってきたものがあり、それを何一つ変えることなく守り続けてきたからこそ、お客さんもついてきてくれています。これからも手を抜くことなく、私達にできることをし続けて行きたいと思っています。
写真右:品川水産 品川佳之様