太く、長く、味が濃く香り高いアスパラ――。今回ご紹介するのは、北海道南西部の厚沢部町でアスパラ専門農家「ジェットファーム」を営む長谷川博紀さんの育てるアスパラです。農薬や化学肥料をいっさい使わず、自然の力だけで育てることで、他にはないおいしさを引き出していると知り、どのような畑でどのように育てられているのか、現地を訪れ見学をさせていただきました。
函館空港から車で約1時間。厚沢部町は山々に取り囲まれた盆地で、夏と冬の寒暖差、また朝晩の寒暖差もある地域です。美しい緑色のアスパラが植えられた畑にて、アスパラ作り、土作りについてのお話を長谷川さんにお聞きしました。
長谷川さんが11年前に農家を始めた当初、畑の土は農薬漬けでカチカチに固まり、不健康な状態だったとのことです。ご自身の体調不良をきっかけに、農薬をいっさい使わず自然の力で育てる方法にシフトチェンジし、微生物がふんだんに生息するやわらかい土へと変えたことで、おいしいアスパラが育つようになったのだそうです。
農家を始めて3年ほどしたときに、無農薬で健康的なおいしいアスパラが人気店のシェフの間でじわじわと広がり出しました。現在はミシュランの星付きレストランから一般家庭まで広く愛されている有名なブランドになっています。お話の端々から長谷川さんのアスパラ作りにかける情熱とストイックさが伝わり、アスパラ自体のおいしさの理由、そして「ジェットファーム」のアスパラが愛される理由がよくわかりました。
畑で齧った生のアスパラは香りとうまみが強く、これだけで極上のご馳走のようでした。また、アスパラの苗も植えさせていただいたのですが、こちらは3年後に立派なアスパラに育つとのことで、非常に楽しみです。
長谷川さんが丹精込めて育てた立派なアスパラのおいしさを、当店では「すり流し」などにしてお届けしています。初夏の訪れを感じるとともに、自然の恵みをたっぷりと堪能できる一品をどうぞお楽しみください。
料理長・松下俊一よりひとこと
長谷川さんのアスパラは、新鮮でみずみずしくジューシーさがあり、色と味が濃く、やわらかい食感が特徴です。もともとの味や香りが豊かでおいしいため、調理の際も砂糖やみりんなどの甘みの調味料は必要ないのです。
当店では3Lサイズのアスパラをふんだんに使った「アスパラすり流し」をコース料理の中でお作りしています。アスパラを蒸した後、冷えた出汁の中で急速冷凍をすることでこのきれいな緑色をキープ。その後ミキサーにかけてスープ状にし、出汁と薄口醤油と塩のみでシンプルに味付けをしています。アクセントとして、アスパラと相性のよい千枚アワビを合わせています。薄く剥いだアワビに酒と塩を軽く揉み込むことでやわらかくし、アスパラの下に隠しました。美しい色、香り、そして豊かな味わいをお楽しみいただけましたら幸いです。
「ジェットファーム」長谷川博紀さんよりコメント
ご縁あってアスパラを使って頂いておりますし、畑にもお越し頂き共に語らえたことで、召し上がるお客さまの事をイメージしながら畑に向き合えています。
写真右:紀尾井町 福田家 福田貴之